
昭和44年生まれ直美の物語⑮
15・直美の使命
直美は心を殺される経験をした。心が死んでも身体があると生きなければならないと思った。
しかし、「生まれてきて良かった」「ありのままの自分でいい」と思えるように両親が育ててくれたおかげで、心を生き返らせることができた。そんな風に感じている。
この「生まれてきて良かった」が無かったら、心は死んだままとなり、いずれ身体も無くなるのだろうか。
直美は苦しみは多かれ少なかれ誰もにある。
生まれ落ちた環境の中、自分が起こす経験から人間の感情や精神が育っていく。一人一人みんな違う。誰もが誰かの苦しみが分かる。同じような苦しみがあれば尚の事。
直美は平凡な絵にかいたような日本のサラリーマン家庭の娘として育った。おかげさまで、五体満足、健康に育った五十二歳の今も大きな病気もケガもせず生活している。
私の苦しみなんて大したことが無い。と直美は思う。
もっともっと苦しんでいる人がいるだろう。
苦しみの大きさではない。苦しみは誰しもある。その苦しみから逃れ、幸せな今があることが大切なんだ。
無くならない苦しみを減らす工夫をするかしないと直美は思った。
直美の苦しみはどこにあったか。
「執着」「嫉妬」「欲求」そして「思い通りにならないこと」。
思い通りにならないことが怒りの元となる。真逆の価値観の彼との結婚が今までに考えたこともなかった苦しみを直美に与えた。直美は結婚してからのこの九年間、思い通りにならない彼に苦しめられる。同じく思い通りにならない直美が彼を苦しめる。
直美に苦しみが無くなったわけではない、しかし、苦しいと感じたときにその苦しみがどこから来ているかを考えるようになった。
そして、心が亡くなると、人を思いやることも人に優しくすることもできなくなる。常にイライラして発狂したい衝動に駆られ、時には自分を傷つける。物を壊したり、相手を傷つけることもある。
直美の育った環境が正しくて、彼の育った環境が間違っている。彼からしてみると、それは真逆となる。
直美の生きた人生でも誰かの救いになるかも知れない。
誰しも、自分の人生が誰かの救いになるかも知れない。そんな風に捉えたら、誰かが誰かのお役に立つのではないか。直美は今、このことを伝え、平和な日本、平和な社会を子どもたちに残すことを使命と感じている。
やんちゃな少年に助けられ、やんちゃな男性に惹かれる恋愛観。あの時から直美は使命を与えられていた。五十歳を過ぎて、この使命に気付いた。そして行動する。
直美は使命を全うする人生をこれからも歩むだろう。