れんくんブログ

れんくんのてらこや

【れんくん日記】

2023.02.27

昭和44年生まれ直美の物語⑬

13・心が壊れる

 

直美は四十三歳になる年に結婚を決めた。

父の余命を伝えられた頃「覚悟してみるか?」と彼に言われたように記憶している。

恋愛感情があったわけでもなかったが結婚をした。どうやら結婚とは無意識の領域での決断らしい、それなら納得できる直美だ。

結婚してからは苦しみの連続だった。

直美は一度恋愛を失敗したと思っていたから、積極的に結婚をしようと思うことはあまりなかったはずだが結婚した。

結婚とは無意識の領域での決断だとしたら、前(前世)からの因縁なのか。とため息が出る。

価値観が真逆の相手に自分の考えを伝えようとする、伝わるはずもなく、打ちひしがれる。彼との生活はその連続だった。

「お前が悪い」「お前がそうさせた」「お前は間違っている」、直美が自分の考えを伝えようとするや否や「そうじゃなくて」「でも」と否定される言葉しか帰って来ない、そんな毎日で結婚して三年後に「パニック発作」が起き心が死んだ。そんな感情だった。結婚した彼は、高校時代はパンチパーマだったらしく、やんちゃな人だ。直美の中学三年生のときに仕上がった恋愛観を物語っている結婚相手だ。

心が死ぬとどうなるか。

涙が止まらない、過呼吸を繰り返す、いつもイライラしている、怒りしかわかない。

直美の場合は、仕事だけはした。やらなければならないことはきちんと出来た。相談員の仕事は自分のペースで一人で出来る仕事だったので、仕事上では誰にも迷惑がかからなかった。心が亡くなっていることも気づかれることはなかった。直美自身は心が死んだと思っていたが実際には生きていた。だから仕事をしたのだろう。

家では家事が出来なくなった。食事もあまり摂らなくなった。仕事以外はずっと寝ていた。

家にいる時は心が死んでいる状態で、突然、死にたいと身体が叫んでいるようだった。近所の内科から処方されていた頓服薬(ソラナックスという安定剤)を数十粒一気に飲んだ。致死量には到底足りないのは分かっていた。しかし衝動に駆られて一気に飲んだ。

意識はあった。周りの声が聞こえた。しかし身体が動かない、目も開かない、起き上がれた時には丸二日立っていた。精神薬の恐ろしさを試した結果となった。それ以来薬を飲むことが無くなっている。

何回か過呼吸が起きて不安になった直美は近所の内科へ行き、数回通った。しかし心療内科や精神科へは行かなかった。行くべきではないと思っていたのではない。直美が担当している利用者と精神科で出会ってしまうのではないかと怖かったのだ。

直美は、そ酷い状態が続いても、持ち前の冷静で客観的な性格は変わらなかった。客観的に判断していった。パニック発作が起こる元凶が何かを考えた。見つかった。そしてそこから離れることを決めた。会いたくない人を避けて生活した。ひどい状態からひと月半くらいで、元の自分を取り戻していた。元凶から逃げていれば、パニック発作は起きず、ストレスも感じなかった。

相談員の仕事をするようになって、「精神障害」の方との関わりが多くなっていた。あっという間に治った直美は、思った。愛情持って褒めてくれたり叱ってくれた両親が自分の自己肯定感を作ってくれた。だから、心が死んだと思っても生き返らせることができたんだと。父は亡くなっていたから、母だけにその感謝の思いを伝えに走った。直美は初めて面と向かって「大事に育ててくれてありがとう」と言った。